ハロゲン元素の実験




   1. 臭素の作成: 換気注意


  これは高校でもやる(?)実験の割に、中毒の危険がある実験なので、吸い込まないよう注意を要する。 臭素 Br2 は、硫化水素やアンモニアのようないわゆる”悪臭”とは異なる、塩素 Cl2 と同じような刺激臭で、より後に残るようなしつこいにおいであり、おそらく毒性は塩素よりも強い。(* 筆者は中2の時に家で実験して、吸い込んで一時間も横になっていた経験があります。 特に実験が終わって、装置をばらす時注意。今回ものどが痛くなりました。)

  臭化カリウム KBr (119.25) 50g、 二酸化マンガン MnO2 (87.18) 20g を混ぜてフラスコに入れ、穏やかに温めながら、50%硫酸 H2SO4 (98.15) 50ml を少しづつ滴下する。
      2 KBr + MnO2 + 2 H2SO4 → Br2 ↑ + MnSO4 + K2SO4 + 2 H2O

  受け器(トラップ)は十分氷冷し、排気管を付けて戸外に出す。  できた臭素(沸点 58.8℃、融点−7.35℃)は、アンプルに入れて口を封じて保存、あるいは、共栓フラスコに入れ冷凍保存。 後で、臭素水の実験や、不飽和炭化水素などとの反応に使える。 蒸気圧が高いので、冷却してから扱うと扱いやすい。
  



   2. 塩素によるケイ素の燃焼実験: 換気注意


  ケイ素 Si (28.09) の粉末を、乾燥管に SiO2(石英)ウールを詰めた物の間に挿入して、バーナーで加熱して塩素ガスCl2 (35.45)を通すと 反応して燃焼する。燃焼を始めたら火を遠ざける。 反応ガスは 四塩化ケイ素 SiCl4 (169.9、沸点57.7℃)になっているので、これを氷水に漬けた試験管に導く。 (ケイ素の表面が酸化すると塩化が進まないので、塩素で十分置換してから熱する。)
  塩素は、高度さらし粉 Ca(ClO)2 (次亜塩素酸カルシウム、有効塩素70%)に、1:1塩酸(約17% HCl)を滴下して 供給する。
  四塩化ケイ素は、水中に投入すると、白色のSiO2コロイドと塩化水素に分解する。

      Si + 2 Cl2 → SiCl4 ↑

      Ca(ClO)2 + 4 HCl → 2 Cl2 ↑ + CaCl2 + 2 H2O

  高温塩素ガスに耐えるつなぎ目として、ガラス管を突き合わせて テフロンテープ(200℃、耐薬品性)を数回巻き、その上にシリコンゴムチューブ(200℃)をかぶせて、短時間なら結構使えた。 湿気のためにSiCl4の大部分が分解して SiO2として管の内側についたので、2回目は 塩カル管をつけて塩素を乾燥させて行なった。
  (SiO2で汚れたガラス管などを アルカリで煮て洗浄するのは非常に危険なので、そのまま廃棄することをお勧めします。シリコンゴム栓は塩素が抜けるとそのまま再使用可。シリコンゴム管は廃棄。)

 

   § この方法は、四塩化チタン(蒸留、沸点136.4℃)、ニッケル、鉄などの各種無水塩化物(触媒用)の作成に使うことができる。
  ケイ素は、二酸化ケイ素に炭素を加え、高温で還元して化学用の99%のものを作る。 次に四塩化ケイ素とし、分留して純度を上げてから水素で還元して高純度ケイ素を得る。 半導体用にはさらに結晶成長法(ゾーンメルト、チョクラルスキー)の過程で11N(イレブンナイン)以上級の超高純度品を製造している。 太陽電池用は7N程度で良い。
  チタンやジルコニウム等の四塩化物は、溶融マグネシウムに滴下してスポンジ・チタン、スポンジ・ジルコニウム等を得て、真空アーク溶融してインゴットとする。

   § シリコン・オイル、シリコン・ゴム:  実験室的には四塩化ケイ素と グリニャール試薬等と反応させるが、工業的には、直接法によって、ジクロロ・ジアルキル・シランを合成する。
     2 RCl + Si → R2SiCl2 (ロコー法、Cu触媒)、   水と作用: → HO−R・Si・R−OH (ジアルキル・シラン・ジオール)、  重合: HO−R・Si・R−OH + HO−R・Si・R−OH + ・・・ → −O−R・Si・R−O−R・Si・R−O−・・・、  → 環状・3量体: シリコン・オイル、  縦横に重合: シリコン・ゴム




   3. 電解酸化による次亜塩素酸ソーダ溶液の作成: 換気注意


  塩素(ハロゲン)イオンを含む水溶液の電解は、アノード(陽極)が非常に過酷な状況にさらされる。 十分耐えうる陽極材は、純粋なカーボン(黒鉛)、イリジウムめっきチタン網 くらいしか無い。 塩素イオンには白金も金も、徐々に侵される。プラチナ(白金)めっきチタンメッシュは、硫酸浴、水酸化物や炭酸塩などの、ハロゲンの入っていない浴の、不溶解性アノードとして用いられる。プラチナ・ステンレスメッシュは、硫酸、クロム酸の陽極では溶けて使い物にならない。(硫酸、クロム酸には、銀1%含有の鉛板が用いられる。) また、安いカーボン電極は黒鉛を金属で結合しているので、金属は溶解し炭素粒子が剥離するので、ろ過等が必要となり不純物が混じる。 備長炭は導電性なので天然もの用途には良い。

  今回、食塩水(≒塩化ナトリウム水溶液)を電解するので、陽極には、(少々値段が高いが)RuO2−IrO2−TiO2/Tiメッシュ (いわゆる イリジウム・ルテニウム・チタンメッシュ、50×100mm)を用いた。(中国直輸入で6000円くらい) 陰極には白金‐ステンレス・メッシュを用いた。(陰極はチタンメッシュでも何でも良い)
  約5%食塩 NaCl 水 300mlを、300mlトールビーカーに入れ、電極をセット(塩ビ板)して、常温強く撹拌しながら電解する。 3V1A、極間1.5cm、1〜2時間電解、液温 約30℃。電気抵抗が低いので発熱はあまりない。

      (陰極: 2 Na + 2e + 2H2O → 2 NaOH + H2 ↑)
      (陽極: 2 Cl → Cl2 + 2e)   2 NaOH + Cl2 → NaClO + NaCl + H2O

  次亜塩素酸イオン(ClO)ができている確認として、万能pH紙が、始めは pH<11 の青紫色で、時間がたつと漂白されて色が薄くなる。 また、ヨウ化カリウムと酢酸を加えると ヨウ素を生じて褐色になる。(でんぷんを指示薬としてチオ硫酸ナトリウムで定量できる。)

      NaClO + 2 KI + 2 CH3COOH → I2 +NaCl + 2 CH3COOK + H2O

  

    消毒用の、次亜塩素酸溶液(HClO)は、0.2%〜1%程度の希薄なNaCl水溶液を、電解槽の中央に”厚紙”、セラミックペーパー等の「隔膜」を設け、電解する。細長い備長炭(導電性)でも電解できる。100mA程度(1000mlビーカー) × 6時間くらい で、陽極液側にできる。(陰極液:強アルカリ性、陽極液:酸性) これは(食塩は含むが)アルカリを含まないので、割と安全に使用できる。(消毒にはさらに薄めて使う)

    沸騰温度で、pHが中性から弱アルカリ性で、撹拌しながら電解すると、次亜塩素酸ナトリウムが不均化して 塩素酸ナトリウム NaClO3 を生じる。撹拌するので、熱源は投げ込みヒーターとなる。

    市販の次亜塩素酸ナトリウム(+少しの水酸化ナトリウム)を含む塩素系漂白剤を 約600ml取り、1000mlビーカーでゆっくり煮詰める。加熱の途中で、撹拌しながら1:3塩酸を約50ml加えてpHを下げる。( pHが11以上では不均化しない。) 約200mlに濃縮すると食塩の結晶が出始めるので、熱いうちに傾寫(けいしゃ)してこの上澄みを取り、熱飽和塩化カリウム溶液約40ml(KCl約20g分)を加えると複分解(置換反応)して、溶解度の小さい 塩素酸カリウム KClO3 の板状結晶が沈殿する。 これを氷冷して吸引ろ過し、少量の冷水で洗って乾燥する。(約10g、 2回目も10gで収量は少ない)
  有機物が混じると発火や爆発の危険があるので混入注意。 (* 実験には、普通の(昔からの)次亜塩素酸ナトリウム系”ハイター”を使う事。 ”キッチン・ハイター”などでは白いゲル状のもの(SiO2?)が大量に沈殿してNGだった。)

      3 NaClO → NaClO3 + 2 NaCl (不均化)、      NaClO3 + KCl → KClO3 ↓ + NaCl (複分解)

 




   4. ヨウ素の実験: 換気注意


   (1) ヨウ素の昇華の実験:


  ヨウ化カリウム KI 3gを約20mlの水溶液とし、塩素発生器からの塩素を吹き込む。 すぐヨウ素が析出して褐色の沈殿が分かれてくるので、これをろ過して、ろ紙で挟んで軽く脱水する。
  ろ紙が生乾きのうちから ヨウ化カリウム KI 1gを混錬し(残っている塩素をヨウ素にする)、ビーカーに入れ、無水塩化カルシウム(乾燥剤)を上下を挟むように敷き、ビーカーの下から穏やかに加熱する。 ビーカーの上には、ヨウ素をトラップするための、冷水の入ったフラスコを置く。 ヨウ素が昇華し紫色の蒸気が出て、フラスコの底に ヨウ素の結晶が付く。

      2 KI + Cl2 → I2 ↓ + 2 KCl
 

  § 昔は海藻を不完全に焼いた灰、”ケルプ”(0.45%以上含まれる)を水で抽出し、塩素を通してヨウ素を沈殿させて作り、その後は、チリ硝石から分離され作られた。 現在は、千葉県の南関東ガス田からの鹹水(かんすい)から、世界の3割もの量が作られている。(2002年の生産量はチリ(1万トン)に次ぐ第2位(6500トン))


   (2) ヨウ素酸カリウム、 ヨードホルムの実験:


  ヨウ素酸カリウムは、ヨウ素と水酸化カリウムの混合溶液から、塩素酸カリウムよりも容易に不均化反応が起こり、一度煮沸するだけで充分である。この反応は原理的に収率が著しく低い(1/6mol)。 (ヨウ素を直接硝酸で酸化して、ヨウ素酸を得る反応(*)もあるが、簡単にできないので やむを得ずこの方法を取った。)

  水酸化カリウム KOH (56.1、85%) 8g を水に溶かして 約20mlとし、これに ヨウ素 I2 (254) 15g を少しずつ入れてかき混ぜて溶かす。 加熱煮沸して、氷冷する。 普通にろ過して、少量のエタノールで2回洗い、乾燥させる。 (収量: 2.7g、 収率:67%) ヨウ素酸カリウムはヨウ化カリウムによく溶けるので、かなり失われた。エタノールには溶けにくい。 (水への溶解度 ヨウ化カリウム:6℃128g/100ml、 ヨウ素酸カリウム:0℃4.7g、25℃9.2g、100℃32.3g/100ml)

      3 I2 + 6 KOH → KIO3 ↓ + 5 KI + 3 H2O     (* I2 + 10 HNO3 → 2 HIO3 + 10 NO2 + 4 H2O )

   ヨウ素酸カリウム−でんぷん紙は、亜硫酸ガス SO2 の検出に使うことができる。 約1%バレイショ・でんぷん液 100mlと、0.2%KIO3 溶液100mlを混ぜ、ろ紙を浸して乾かして作る。 試料液には、リン酸(あるいは、リン酸一カリウムKH2PO4 3gと 50%硫酸1ml)を添加して、撹拌し、亜硫酸ガスを出させる。作ったろ紙は短冊状に切り、水で湿らせて反応フラスコの上から吊るす。 (ワイン、乾燥果実などの酸化防止用に、亜硫酸水素ナトリウム(食品添加剤として)が添加されている。 無添加表示のものは、紫色が出ない。)

      2 KIO3 + 5 SO2 + 4 H2O → I2 + K2SO4 + 4 H2SO4

   ヨードホルムは、トリハロメタンの一つで、水酸化ナトリウムと、アセチル基を持つ化合物(アセトン、アセトアルデヒドなど)や アルコール(エタノールなど)を予め水溶液にして、そこに単体ヨウ素を投入、あるいは ヨウ化カリウム水溶液に溶かしておいたヨウ素液を混ぜて、温めると、黄色の沈殿として生じる。 ヨードホルムは水に溶けにくい。 これはいわゆる”ヨード・チンキ”のにおいがし、消毒剤として用いられた。 (ホルムアルデヒドや酢酸はヨードホルム反応を示さない。)
  アセトン CH3−(C=O)−CH3 1ml、 水酸化カリウム KOH(85%) 1.7gを、水約30mlに溶かし、ヨウ素 I2 7.6gを投入し、撹拌しながら加熱する。

    (アセトン、アセトアルデヒド):  R−(C=O)−CH3 + 3 I2 +4 NaOH → CHI3 ↓ + R−COONa + 3 NaI + 3 H2O    (R: H、CH3 など)

    (アルコール):  R−CH(OH)−CH3 + 4 I2 + 6 NaOH → CHI3 ↓ + R−COONa + 5 NaI + 5 H2O

 


   (3) 三ヨウ化窒素・アンモニウム塩: (爆発性なので実験しない。するならごく少量で。換気注意)  →  参考ページ

     NH3 + 3 I2 → NI3 + 3 HI    が、基本的反応で、NH3過剰では これにNH3が付加し、 まず、 NI3・(NH3)5 が低温で安定で、これが常温になると、

     NI3・NH3  (ヨウ化窒素アンモニウム)  の形となる。 これはほんの少しの機械的刺激(さじでたたく、羽で触れるなど)で爆発する。 分解反応は、

     8 NI3・NH3 → 5 N2 + 6 NH4I + 9 I2   であり、2つの窒素原子が分子化するエネルギーが大きいため強い爆発となる。




   4. フッ化物の実験:


     蛍石(ほたるいし)からフッ化水素を作る実験  →  (2) フッ化鉱物の実験: 参照

  蛍石は水に不溶性(他のハロゲン化カルシウムは水溶性)で 化学的に安定であるが、熱濃硫酸と反応しフッ化水素(猛毒)が発生する。 ただし、フッ化水素はガラスと激しく反応するので、テフロン(短時間なら鉛)などの容器で扱う必要がある。

        CaF2 (蛍石) + H2SO4 → 2 HF ↑ + CaSO4





     § 似て非なる 有毒元素:     →  (参考) いろいろな元素


  シアン化水素や一酸化炭素、フッ化水素や、様々な有機物など、有毒物質にはいろいろありますが、特定の「元素」、また その元素の化合物猛毒である場合にはある規則があります。それは、生物の新陳代謝や活動に必須の構成元素に 似て非なる元素が、その元素と同じような振る舞いをして、有害な働きをする場合です。 (同じ族で、隣の周期の元素が多い)

  タリウム(Tl、+1価、劇物)は、カリウム(K)に成り代わり、細胞膜を脱分極するので、神経系を破壊し、脱毛し、皮膚炎や失明を起こします。(昔は脱毛剤として用いられた)
  カドミウム(Cd、劇物)は、亜鉛(Zn)に成り代わり、 ヒ素(As、毒物)は、リン(P)に成り代わり、 セレン(Se、毒物)は、硫黄(S)に成り代わり、 それぞれの代謝に悪影響を及ぼします。
  (ケイ素(Si)は、炭素(C)と違って代謝しないので無害。 塩素化合物は無機水溶液としてのみ意義があり、代謝はしない。 マグネシウム(Mg)とカルシウム(Ca)はリン酸と共に働いて骨や歯を形成する。 また、セレンやヒ素はごく微量ならば、必須元素として働く。)


  キリスト教においても、同様なことが言えます。 まったく違う宗教は簡単に見分けられ、初めから受け入れないで済みますが、似て非なるもの(異端、異端的教理)、これが大変厄介です。 最も良い(?)詐欺師は、95%本当のことを言って、残りの5%で欺きます。 それと同じように、キリスト教の顔をして、救いの教理が微妙に異なるもの、聖書を微妙に曲解するもの、これが曲者(くせもの)です。
  世の終わりの時が近づいている今の時代は、聖書の予告されているように、惑わしの多い時代です。(マタイ24:4)
  だから、私たちは、神からの本物を 常に見分けていかなければなりません。





            戻る          トップへ戻る